先日偶然NHKの番組『日曜美術館』で有名な建築家のヴォーリズの特集をやっていました。

有名な方で日本のレトロな洋館を数多く作った方ということでした。
私は全然知らなかったので、新鮮な気持ちで拝見しました。 神戸女学院や関西学院、山の上ホテルなどが有名らしく、ビックリしたのは私の家から結構近くいつも車窓から見ていた、日本獣医生命科学大学(旧獣畜大)の一部の校舎もヴォーリズの作品であることを知りました。

また彼はメンタームの近江兄弟社の生みの親でもあるそうで、これも当然初めて知りました。

 テレビで彼の建築の様式を紹介していたのを見て、大阪の祖父の家を思い出しました。
それはその家にあった、洋間があまりにヴォーリズの作品の洋室の雰囲気と似ていたからです。

祖父は最初は港湾関係の会社だったので大阪港近くに住んでいて、そのうち西成区の天神ノ森というところに居を構えました。
かなりの大家族だったのですが、私の父が東京に転勤になりひと家族出て行き、またひと家族出ていき人数が減り、ほどなく豊中の上野というところに引っ越しました。
私も天神ノ森の家のことはほとんど憶えていません。

豊中の家は関西にはよくある溜め池のほとりにあるかなり古い家でした。
対岸は東豊中という地域でそこそこの住宅街でした。
いつも祖母が池の向うに(現在ははぐれ刑事純情派でお馴染みの)藤田まことさんが住んでいるといっていました。
当時は関西の喜劇役者だったと思います。

家の話にもどりますが、家の周りは船板塀といって、関西の家ではよく見られる、船の甲板の板を塀にした頑丈な囲いで中もほぼ純和風でした。
長い縁側があり、雨戸も木でいつも夕方は雨戸を閉めるのに大変でした。
また井戸もあって、すいかを冷やしたりするのに使っていましたが、大阪は水がきれいではないので、決して飲むことはありませんでした。
風呂も五右衛門風呂だったのを憶えています。夕方になると祖父が薪をくべていました。

そして問題の洋室ですが、そんな純和風の家には似つかわしくない、レトロではありますがおしゃれな洋室で、祖父母の寝室に使っていました。
当時和風な臭いというのは、どこに行ってもありましたが、その洋室は独特な香りがして、不思議な空間でした。

私が就職するころまでは、祖父母はそこに住んでいましたが、体が大変で三田の叔母の家に同居してしまい、晩年はずっとそこですごしました。

祖父が亡くなる少し前に阪神大震災があり、大阪とはいえ伊丹とすぐ近いこの地域はけっこう被害を受けて、家が一部壊れてしまいました。

祖父が亡くなり、形見分けするというので父代わりに久々に豊中の家に行きました。
地震のあとそのままにしていたので、家具が倒れていたり、壁に亀裂が入っていたりしていましたが、家はまだしっかり建っていました。

その時にやはりあの洋室が気になって、というよりあの香りを嗅ぎたくて部屋に入ると、少しカビ臭かったですが、あの香りはしっかり残っていて『よかった』と思ったのを憶えています。

結局その後家ごと取り壊してしまいましたのでそれっきりです。

私自身いろいろと転々と住んでほとんど故郷や幼なじみとなどとは無縁です。
一番長かった埼玉の住宅も最近久しぶりに行ってみたら住宅ごと取り壊されていたことを思うと、あの古くさい洋室の臭いや、井戸のポンプの音、木の雨戸を一斉に閉める音など今でも出来ることなら、もう一回聞いたり、嗅いだりしてみたい、と思いました。

ヴォーリズの特集はそんな記憶をよみがえらせてくれて感謝しています。

機会があったら近江八幡や五個荘も今度行ってみたいと思います。船板塀と洋館と両方観に行きたいと思います。

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