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私はしがない営業マン。

はるか前の話ですが、会社の後輩でT君という人がいました。

彼は気はやさしくて力持ち、かどうかはわかりませんが、いつも穏やかでおとなしい人でした。

でも体は大きくて身長は180数センチもあり、がっちりした体にくわえ、精悍なというより、大変ごつい顔つきをしていました。

ちょうどプロレスラーの体で顔が悪役商会みたいな感じでした。

最初の頃、彼の人間性がわかるまでは我々先輩も少し遠慮して接していました。

「ほらT!ちゃんとやれよ。お前ぶっ飛ばすぞ!」
なんて言ったら、

「ほう〜、やってみろよ。え?どうやってぶっ飛ばすんだよ、先輩よ、こうやるのか?」

「バキ、バキ、ボキ・・」
「ぐわぁ〜!」

なんてことになったら大変なので・・

でも彼はまったくそんな心配はない人で、何があっても、いつもおとなしく、穏やかでした。
またどちらかというと気弱なところもありました。

ある日・・
彼と一緒に車で営業に出ることになりました。

もちろん後輩である彼が運転手です。

そして出発してしばらくしたところで事は起こりました。

私たちの車が他の車とあやうく接触しそうになってしまったのです。

「危ねえなぁ」
車の中で相手には聞こえないので、私は舌打ちをしながら言いました。

もちろん相手もそう思ったのでしょう。
中には二人組みの男が乗っていました。

よく見るとかなり柄の悪そうな兄さんたちでした。

「まずい」

変なやつとかかわりになっちゃった。
そう思いました。

案の定、一人が車を降りてきました。

「おい!○※▲△×○◎△・・・・・!!」

何か大声で叫んでこっちに来ます。

「やばい・・どうしよう」

めんどくさいことになりそうです。
もしかしたら一発殴られるかもしれない・・

そう思うとけっこうびびってきました。

「ああ?○※▲△×○◎△◇◎○・・・・・!!」
彼はまだ大声で何か叫んでいます。

多分『どうしくれるんだ、この野郎、降りてこいや。ぶっ飛ばしてやる!』
とでも言っているのでしょう。

彼は私たちの車のすぐ近くまできました。
見るからに悪そうな感じで、肩をいからせています。

私のほうを睨みつけています。

そしてふと、となりの運転席にいる後輩のTのこともちらっと見ました。
方向が悪くて、Tのことはよく見えなかったようです。

すると彼は今度はポケットに手を突っ込みました。

『そうか、私は弱そうだけど、Tは見た目はかなりでかくて強そうなので、さらに威圧しているんだな』
と思いました。

『絶体絶命だ・・』

ところが、彼は急に
「あれ?」
と言いました。

「あった」

そしてなんと手を突っ込んだポケットから小銭入れを出しました。
そしていきなり近くの自動販売機でジュースを買いました。

『なんだ?』

そして缶ジュースを買うとそそくさと車に戻り、そして出発してしまいました。

おお、危なかった・・。

それにしてもTの見た目の威力は絶大でした。

天井につく位の高い座高で、こわもてで・・

今日ばかりはTに感謝しました。

「おいT、ありがとうお前のおかげで助かったよ。一時はどうなるかと思ったよ」

Tはしばらく前を見て黙っていましたが、やがて
「いやあ、僕も怖くて、怖くてちびりそうでしたよ・・、ほらこんなに顔が引きつって硬直してしまいましたよ」
と言いながら、やっとこちらを振り向きました。

そのときやっと、彼らが逃げるように退散した理由がわかりました。

そこにはこの世のものとは思えないぐらいの、巨大で恐ろしい形相で、目の前にある獲物に飛び掛らんと思うような凶暴な表情をした男の顔がありました・・

☆☆☆☆☆